堀川1000人調査隊の事務局です。

 本日は、名古屋の母なる川、堀川の浄化をめざして市民と行政が協力し合い、
ステップアップしながら取り組んでいる、堀川1000人調査隊の活動について
事例発表させていただきます。


1.はじめに   『名古屋の母なる川』

 堀川は、名古屋の都心を南北に流れる全長約16kmの一級河川です。

 堀川は、自然の河川ではなく、今から約400年前、名古屋城を築城するときに
材木・石などの資材や,城下町に必要な米、野菜などの生活物資を船で輸送するために
使う水路として開削されました。 


 その後、堀川の両岸には材木屋さんなど、運河機能を利用する商売が発展し、
その関連で、仏壇・からくり細工などの木工産業なども発達、今日のものづくり
先進地区の基盤づくりにも貢献しました。


 しかし、堀川は自然の水源をもたないため、水がよどみやすく、高度経済成長期に
はいると、堀川は工場排水や生活排水で汚染がどんどん進んでゆきました。


 名古屋の母なる川として300年以上も市民に愛されてきた堀川も、ヘドロのたまった
くさい、汚い川に変貌、汚染のピークであった昭和40年には堀川に捨てられた動物の
死体だけでも1961匹を数えたという記録があるそうです。


 建物は堀川に背を向けてたち、堀川はどぶ川として、人々にかえりみられなくなって
しまいました。


 
2.行政の動きと市民の関心の高まり

  昭和60年(1985年)、国は、「マイタウン・マイリバー計画」の第1号に堀川を
取り上げる、と発表、これが弾みとなって、名古屋市の堀川再生への事業が本格化し、
護岸などの整備も進み、水質もだんだんと改善されてきました。


  行政の努力で堀川が少しずつきれいになってゆくと、堀川を何とかしたい、
堀川に清流を取り戻したい、という市民の関心も高まり、あちらこちらで清掃活動や
学習会などがおこなわれるようになりました。


 そして平成11年には、市民が中心となって「堀川をきれいにしよう!」という署名活動が
行われ、わずか1ヶ月の間に20万人もの人の署名が集まり、堀川浄化への市民の関心は
一気に高まりました。  


3.第1次堀川1000人調査隊

 平成15年(2003年)、市民の提案「堀川1000人調査隊」の企画が
「全国都市再生モデル調査事業」に採用されました。


 本来自然の水源をもたない堀川には水環境を維持するため、名古屋市の北部を
流れる庄内川から毎秒0.3トンの導水をいただいています。


 この導水量を一時的にもっと増量したら堀川の水質や水辺環境がどのように
変化するかをたくさんの市民が参加して調査しようという企画、これが第1次
堀川1000人調査隊です。


 1000人調査隊というネーミングは、10人くらいの調査隊が100チーム隊集まれば
1000人になるよね、1000人も集まったらきっと盛り上がるよね、という夢から
生まれた名前です。


 この企画には、国や県、名古屋市にもご協力をいただき、庄内川からの導水の増量が
社会実験として実現しました。


 そして市民に調査隊への参加を募ったところ、2ヶ月の申込期間に予想を大幅に超え、
なんと217隊2007名の申込みがあり、かつてない壮大な市民調査が展開されました。


4.第1次堀川1000人調査隊の提議した堀川の問題点と成果

 この第1次堀川1000人調査隊は、平成16年(2004年)に4ヶ月間調査活動を実施し、
成果発表会を開催しました。


 成果発表会では、市民の視線からみて、堀川にはさまざまな問題点があることが
報告されました。


 特に、庄内川からの導水を単純に増量するだけでは、堀川に目立った水質改善効果が
なかったことは、参加した多くの市民にショックを与えました。


 そして上流部を含めた流域全体の水質改善運動や、上下流の市民の交流・連携の
必要性を感じさせました。


 また、下水処理水が堀川の大きな水源になっていて、この改善を進めないと、堀川は
きれいにならない、という問題意識が参加した市民に共有されました。


 この報告会には、松原名古屋市長ほか、行政の関係者も多数同席され、市民の
熱心な報告に最後まで耳をかたむけられました。


5.名古屋市の堀川浄化施策と第2次堀川1000人調査隊の結成
   (堀川1000人調査隊2005による官民協働の実現)
  
  この第1次堀川1000人調査隊で提議された問題点を踏まえ、今度は行政のほうが
動き始めました。


 すなわち、平成17年(2005年)、名古屋市は名城下水処理場で1ヶ月間、
高度処理実験を行うなど、堀川の水源の水質を改善する社会実験を行うことに
なったのです。


 そしてその効果を市民の視線でも検証してもらおうということになりました。
これが、第2次堀川1000人調査隊(堀川1000人調査隊2005)です。


 この下水の高度処理など、水源の水質改善の実験は、3ヶ月間の市民による調査で
堀川浄化に非常に効果があることがわかりました。


6.次なるステップへ
   名城下水処理場の恒久的な高度処理への取り組みと木曽川導水

 この結果をうけて、名古屋市は、今度は、堀川開削400年にあたる平成22年
(2010年)を目標に名城下水処理場の恒久的な高度処理を検討することを発表、
続いて名古屋市民の念願であった木曽川から堀川への導水を社会実験としてを
実施することを発表しました。


 第1次調査隊では、市民が堀川の問題点を指摘し、それをうけて名古屋市が
水源の水質改善実験に踏み出しました。

 そして市民が第2次調査隊を組んで、その成果を確認しました。

 そうしたら今度は、名古屋市が次の木曽川導水実験や、下水処理場の整備に
踏み出したわけです。


 こうした市民と行政が、堀川の浄化の悲願に向けてお互いにステップアップしながら
進んでゆく、という体験は、調査隊活動に参加した市民に大きな夢とやれるぞ!という
勇気を与えました。


7.第3次調査隊活動から

 本年3月から、木曽川流域その他関係の皆さんのご理解の下、堀川に
毎秒0.4トンの実験的導水が開始され、同時に第3次調査隊である堀川1000人
調査隊2010が活動を開始しました。


 第3次調査隊は、本日(12月1日)現在208隊、3,342名を数えます。


 市民調査隊からの報告はひと月200件に達し、いつもどこかで堀川を愛する市民が
堀川を観察している、という状態が続いています。


 市民からのレポートは写真も含め、ホームページを使ってリアルタイムに公表されて
います。


 あそこの調査隊ががんばってるから、私たちも、と調査隊が相互に刺激しあい、
また情報を共有しながら、活発に活動を展開しています。


 現在までの市民の報告から、堀川では木曽川導水開始以後、着実に透視度が
改善されているようすがわかります。


 また水底の藻や水草が大きく成長している様子がレポートされています。


 酸素をたっぷりと含んだきれいな木曽川の水が堀川に導水されたことにより、
堀川が失っていた自浄能力が復活し始めている、という息吹を感じます。


 そしてこの貴重な木曽川の水の力をお借りし、堀川の自浄能力を高めることができ、
そして、よりきれいな水にして海に流してあげることができれば、ご協力いただいた方々に
少しでも恩返しになるのではないか、と思っております。


 もちろん名古屋市民が自ら汚さないことが一番大切です。
市民の意識が高まれば、ゴミのポイ捨てなども減ってくることが期待できます。


 そのためにも私たちは、ただ堀川を調査・観察するだけでなく、堀川を愛する市民の輪を
大きく広げてゆく活動も同時に実施しています。


 自発的な清掃活動をするグループ・企業も少しずつ増えてきました。


主役は市民。その市民が、ネットワークを活用しながら積極的に活動している姿、
それが堀川1000人調査隊です。

 その活発な活動状況をみていると、私たちはこうした組織のありかたは、
21世紀という新しい時代にふさわしい形ではないかとも感じています。


 堀川の浄化は、市民にとって夢でもあり、また分厚い壁でもありました。


 しかし、この堀川1000人調査隊という、市民と行政のパートナーシップは、
その壁に確実に風穴をあけました。

 堀川に清流がよみがえる可能性を感じさせ、市民に夢と勇気を与えてくれて
いるのです。


 以上で私の発表をおわります。どうもありがとうございました。


             平成19年12月1日 

                 水のいのちとものづくりの国際シンポジウムにて
                  
                       堀川1000人調査隊2010 事務局